フィレンツェでディープなランチを

フィレンツェの人々はお昼にどんなものを食べているのでしょう?ランチならではの定番料理があるのでしょうか?フィレンツェの台所である中央市場のすぐ近くに毎日行列ができるトラットリアがあります。昼しか開いていない食事処。ここに行けば、何かわかるかもしれません。

 

◆中央市場に支えられるトラットリア

 

ドゥオーモ広場からジノリ通りを北に足を運ぶと、左手にブルネッレスキの設計により15世紀初期に再建されたサン・ロレンツォ教会がどっしりと建っています(写真左)。未完のファサードからは想像できないほど優美な内部にはメディチ家代々の人々が祭られており、ミケランジェロ設計の新聖具室へは後部の君主の礼拝堂から入場します。ここから周囲に並ぶ露店を通り抜けると中央市場です(写真右)。

 

この広場から目と鼻の先にあるトラットリア・マリオ(Trattoria Mario)の店先にはいつもの人だかり。マリオとは1953年にこのトラットリアを開けた夫婦の息子の名前。現在はマリオさんの息子、つまり三代目のロメオさん、ファビオさん兄弟が受け継いでいます。

 


トラットリア・マリオには市場で働く人々が毎日通っています。大学職員や学生など地元客に加え観光客にも人気です。所狭しと並んだテーブルに小さな丸い椅子。壁に並んだ写真はトラットリアや市場の歴史を物語ります。開店と同時に満席。相席でぎっしり埋まった店内は活気に包まれます。

 


◆郷土色を映し出す料理

 

マリオのメニューにはフィレンツェの家庭料理や郷土料理がずらりと並びます。シェフのロメオさんは子供の頃から両親を手伝い、店と共に育ちました。「元々は昼夜営業していたんだ。父が亡くなった時僕はまだ若く、母一人では回せなかった。だから昼だけ開けてみることにしたんだ。昼夜通ってくれていた常連客が離れてしまうのではないかと不安はあったよ。それが皆変わらず来てくれたから、これで定着したよ。」ここには冷凍庫がありません!毎朝自ら市場に足を運び、近郊で生産される新鮮な食材を仕入れます。その日のメニューを決め、弟のファビオさんが手書きのメニューを作ります。構成はパスタ類のプリモピアット、メインのセコンドピアットと付け合わせ。

 


 

 

ロメオさんに聞くところ、フィレンツェにはこれぞお昼のメニューという類の料理は特にありません。イタリア人ならプリモ、セコンドを一品ずつ食べるのが習慣。肉料理中心ですが、伝統に習って金曜日はお魚料理が自慢です。

 


 

 

◆ある日のメニューから

 

リボッリータ

Ribollita

 

フィレンツェ名物パンと野菜のスープ。野菜とインゲン豆にハーブをコトコト煮込み、スープと固くなったトスカーナパンを交互に重ねて再度火にかけます。再び煮るから「リボッリータ」という名前がつきました。上質のオリーブオイルをかけていただきます。生の玉葱と一緒に食べればツウ。ピリッと辛い玉葱とクリーミーでコクのあるリボッリータの甘辛を楽しみます。元来体が温まる冬の料理とはいえ、マリオでは夏場でも人気です。

 


 

 

ミートソースのじゃがいものトルテッリ 

Tortelli di patate al ragu

 

ミートソースはパスタの種類を変えて毎日登場。木曜日は生パスタで。じっくり煮込んだソースは旨みが凝縮し、じゃがいもがほんのり甘いトルテッリに良く合います。牛ミンチに鳥の肝、香野菜にハーブや香辛料などを赤ワインと水と共に4時間煮込んだソースは素材の風味がゆっくりと絡み合って濃厚な味わい。ロメオさんに作り方を教わり、これほど美味しいミートソースになかなか出合えないことに納得。

 


 

 

 

牛肉のペポーゾ

Peposo al manzo

 

牛肉を赤ワインとトマトをベースににんにく、ローズマリー、塩、胡椒で味をつけ、3時間以上煮込んだ郷土料理。体力とエネルギーを消耗する労働者が好んだ料理だっただけあり、パワフルな一品。中まで味がしみ込んだ肉を頬張ると時折粒胡椒がピリッときます。トスカーナパンできれいにソースをぬぐいたくなります。

 


 

 

◆フィレンツェにどっぷり浸って

 

 

 

フィレンツェ料理はとにかく味が濃い。料理を口に運ぶ度に、ワインが欲しくなります。昼でも伝統の赤ワインは欠かせません。コップで飲むハウスワインと共に昼食を楽しむのもフィレンツェ風。名物と言えばTボーンステーキを忘れてはなりません。マリオでは注文が入ってからロメオさんが大きな塊をカットします。焼き加減はレア。店内に掲げられた「ステーキの骨の部分は手でもって吸うべし」、「ステーキにコーラは合わせない」、「ケチャップ禁止」等いかにもフィレンツェらしい皮肉まじりの標語の数々も愉快です。

 

熱狂的なフィオレンティーナ(フィレンツェのサッカーチーム)のサポーターだと一目でわかるカウンターバーがファビオさんの定位置。予約は受けないため、入ってくるお客さんに待ち時間を伝え、名前と人数を控えます。レジで直接会計をする常連客にもすばやく対応。回転が早いため大忙し。

 

 


 

 

 

 

「ここは皆がまるで大家族ように食事を楽しむ大きな家。厨房でその朗らかなざわめきを聞くのが心地いいんだ。」とロメオさん(写真中)は言います。弟のファビオさん(写真右)との息もばっちり。ロメオさんの息子フランチェスコさん(写真左)も厨房で活躍。マリオに食事にくる人は皆この家族に温かく迎えられます。フィレンツェ料理だけでなく、フィレンツェの空気を深く味わえる場所。食べ終わったら、待っている人に席を譲ってあげることをお忘れなく。

 

Trattoria Mario

Via Rosina 2r Firenze

Tel: 055 218550

営業時間:12:00~15:30

日曜、祝日休み

 

 


 

 

取材、文 奥村 香織