フィレンツェの夏の味覚


盆地のため夏の暑さが厳しいフィレンツェ。時には40℃近く気温が上がることもあります。そんな暑い古都で好まれる料理とは?今回はフィレンツェの下町サン・フレディアーノ地区で地元の人に愛されるトラットリアの店主に夏の料理を紹介していただきます。


◆トラットリアの顔

アッランティーコ・リストロ・ディ・カンビ(All’Antico Ristro di Cambi)はファビオ・カンビさんと弟のステファノさんが共同経営するトラットリアです。店名の「リストロ」は心身を回復させる飲食物のこと。素朴なトスカーナ料理に定評がある「元気を回復させる食事処」では、美味しい料理を提供するのはもちろんのこと、居心地のいい雰囲気作りを大切にしています。ファビオさんはいつも人懐っこい笑顔で食事に来る人を迎えます。手にしているのは、特大フィアスコ。「昔の人はこうしてワインを飲んだんだ」と実演してくれました。


ティラトリオ広場に面した18世紀の建物はもともと修道士が暮らし、後に宿場として人馬が出入りした歴史があります。戦後1950年に二人の父親とおじが共同でパニーニやサラミ、チーズなどのつまみとワインを出す小さな店を開きます。地元で定着した店は80年代に厨房を備えた食堂へと成長します。


カウンター(写真左上)にはトスカーナワインと野菜のオリーブ漬けなど食材が並びます。ここがこのトラットリアの原点です。生ハムやにんにく、唐辛子がつるされた店内(写真右上)の奥は修道院時代のアーチや柱、宿場時代に馬をつないだ鉄の輪が残る趣のあるダイニング(写真左下)。暖かくなるとイタリア人は屋外で食事を楽しみます(写真右下)。


◆夏のフィレンツェで人気の料理

「夏のフィレンツェでどんな料理が人気ですか?」と尋ねると、「前菜の生ハムメロン、パンツァネッラ(固くなったトスカーナパンと野菜のサラダ)に・・・」と夏の名物料理が名を連ねます。生ハムメロンはあまりにもシンプルなため、今回は他の料理を薦めていただきました。


スペルト小麦のサラダ
Insalata di farro

ファビオさんのコメント:
トスカーナ州北部の山間で栽培されるスペルト小麦のサラダは冷たくてさっぱりしているし、体にもいいよ。お好みの野菜と合わせて。


★スペルト小麦とは?★
古代ヨーロッパで栽培されていた小麦の原種。その歴史は新石器時代に遡ると言われています。古代ローマ時代にはパンやフォカッチャなどの原料として重宝されていました。しかし、時代と共に品種改良がおこなわれ、収穫率が悪いスペルト小麦は次第に人々から忘れ去られていきます。現代に至り、トスカーナの山岳部ガルファニャーナで細々と栽培されていた栄養価が高く美味な古の小麦に目が向けられるようになり、オーガニック栽培による自然食品としてますます人気が高まっています。冬はスープに。ガルファニャーナ産スペルト小麦はIGP(地理的表示保護)に指定されています。

スペルト小麦を茹でて冷まし、トマトとモッツァレッラチーズ、バジル、オリーブオイルで和え、塩胡椒で味を調えます。スペルト小麦のモチッとした食感と最後に残る独特の味が特徴。あっさりしているので、暑さで食欲がない日でも食べやすい一品です。


野菜のスープ
Minestrone di verdura

ファビオさんのコメント:
冬の料理ミネストローネは常温でサーブすると夏バージョンに早変わり。野菜とお米だから、あっさりして栄養満点だよ。


テーブルで上質のオリーブオイルをたらし、粒胡椒を挽きます。セロリ、人参、玉葱、キャベツ、ズッキーネ、トマト、じゃがいも、インゲン豆とお米を柔らかく煮込んだスープ。トマトの酸味でさっぱりしています。ほんのり温かいので、体に優しい。


フィレンツェ風Tボーンステーキ
Bistecca alla Fiorentina:

ファビオさんのコメント:
夏の夜こそ我ら自慢のTボーンステーキを!フィレンツェ人は肉のグリルが大好物。


ドーンと迫力のあるステーキは1.4kg、厚さ5cm。外はカリッと香ばしく、中はレアでジューシー。肉を焼きあげた後、粗塩をかけるだけの究極にシンプルな一品。店の増築を行った際に修道士が遺した羊皮紙の書物を大量に発見し、その中で記されたレシピを取り入れたそうです。熱によりジュワーッと塩が溶けて肉になじんでいくと同時に、口の中でさらに塩味が広がります。数人で取り分けていただきます。仲間とワイワイ騒ぎながらステーキを食べれば、元気に夏を乗り切れそうです。



◆夏の過ごし方

十二代続く生粋のフィオレンティーノ(フィレンツェ人)のファビオさん。フィオレンティーノの夏の過ごし方に話題が移ります。「休みの日は海に行くね。夏休みはリラックスするよ。」「でも、家でゴロゴロするわけではないでしょう?」と突っ込んだところ、「もちろん、旅行するよ!最近はマレンマ地方のアグリツーリズモで過ごすのがお気に入りだよ。海があるし、ワインも美味しいしね。」やはりイタリア人は旅行好き。休みにじっとしてはいられません。今年は祝日に当たるフェッラゴスト(8月15日)を付近に10日間店を閉めるそうです。そしてまた日常に戻る人々を迎えてくれます。しっかり食べて、飲んで、疲れを癒す場所がここにあります。


All’Antico Ristoro di Cambi
Via S. Onofrio 1r
Tel. / Fax 055 217134
日曜休業


取材、文 奥村 香織