お祭り騒ぎが大好きな人間が集まる国、スペインでの屋外パエリア・パーティ【後編】

〜メイン、デザート、カクテル編〜


オードブル作りが佳境に入ったところで、メインディッシュであるパエリア作りが本格始動します。まずは薪を使っての火おこしから。ドラム缶を切って作った手作り竈の中に丁寧に薪を並べていきます。
パエリア作りで一番重要なのは、パエリア鍋全体に満遍なく火が届く事。ある箇所のみの炎が強くならないよう常に薪の燃え加減を調整する事が大切です。ミニ農園には何時でも手軽にバーベキューが楽しめるよう、太さ、大きさの異なる枝が大量に用意してありました。炎の様子を見ながら、状況に合わせたサイズの薪を追加していき、安定した炎が出るようになったらパエリア鍋を置きます。




今回使用したパエリア鍋は25人用です。スペインには一人用から、それこそ何千人用という巨大パエリア鍋が存在します。どの家庭にも必ずパエリア鍋はあるものですが、お客様が来た時の為に大きさの違うパエリア鍋を幾つか揃えてある家庭も多いです。



パエリア鍋が傾かないよう微調整しながら竈の上に置き、鍋が充分に温まったらオリーブオイルを入れます。日本人の感覚で「えっ、そんなに油入れるの?」ぐらいな量です。日本人がスペイン料理を作ると大抵は何だかさっぱりした和風テイストになってしまいます。それはオリーブオイルの量が関係している、と多くの料理人は言います。スペインの料理は日本人の感覚からしたら本当にびっくりする程大量のオリーブオイルを使うからです。
油が温まってきたら、みじん切りにしたニンニク、玉ねぎ、ピーマンを炒めます。そして大きめに切ったトマトを加え形が無くなるまで炒めます。ここまでの過程が殆ど、と言っていいほど多くのスペイン料理の基本作業です。



トマトの形が無くなったら、肉を入れ岩塩をふります。今回のメニューはシーフード・パエリアとミート・パエリアの2種類。メインパエリアは肉バージョンで、豚のあばら肉と兎の肉を使います。兎は皮を剥いたものを丸ごと買ったようで、総料理長がとても器用に解体していました。あまり日本では馴染みの無いウサギ、しかも丸ごと、少し日本人には刺激が強すぎる光景でした。兎はレバーや心臓、頭の部分までパエリアに加えるのが秘訣で、味に深みとコクが出るそうです。

肉の表面が黄金色に焼けてきたらインゲン、赤ピーマンを加え更に炒めます。野菜に油が馴染んだら具が隠れる位の分量の水を加え、アーティチョーク、ソラマメを入れます。そこに細かく切った缶詰のホールトマトを加え、野菜が柔らかくなるまでグツグツ煮たらお米を投入します。
パエリアに使う米は、日本で食べる米とは異なった種類の細長い米を使います。日本のような丸い米も細長い米も、スペインでは大抵1キロパックで売っていて150円前後です。そして米は洗わないで、そのまま使うのが基本です。



パエリアはお米を煮ている間の火加減がとても難しいです。強すぎず、かと言って弱すぎもせず、だから薪をくべたり、取り除いたり、担当者は片時もパエリア鍋から離れる事が出来ません。既に仕事も一段落し、いい感じに酔っ払ってきているメンバー達が次々とビールやオツマミをパエリア担当者に献上し、ご機嫌を取っていました。お米がアルデンテになったら火からパエリア鍋を外し、鍋をアルミホイルで覆って余熱で米を蒸らします。



通常はパエリア鍋一つで大丈夫なのですが、予測以上にパーティーへの参加者が増えたので2種類のパエリアを作る事になったそうです。もうひとつのシーフード・パエリアは薪ではなくガスで作ります。スペインではパエリア鍋専用のガス台が販売されていて、蚊取り線香のような形をしています。どんな大きさのパエリア鍋でも均等に火がまわるよう工夫がされているのです。




シーフード・パエリアもミート・パエリアと同じ作業をします。ニンニク、玉ねぎ、ピーマン、トマトを炒めたら、イカと海老を炒めます。水を加えアンコウ、アサリ、ムール貝、インゲンを投入します。しかしここでシーフード・パエリア班、痛恨の大エラー。総料理長の指示がきちんと伝わらず、ムール貝は殻ごとパエリアに入れた方がダシが出て美味しいのですが、食べやすかろうと殻を捨ててしまったのです。

薪と違ってガスで調理すると一定した火力を保てるので安心していられます。だからその間、総料理長が薪で作っているパエリアの火加減に付きっ切りになってしまったのが失敗の原因です。シーフード・パエリアの様子を見に来た総料理長の、ゴミ箱に無残に捨てられたムール貝の殻を見た時の嘆きようったら。最後の最後までダシがダシがと大変うるさかったです。
こちらのパエリアにはホールトマトを入れず、サフランを加え黄色く色付けします。



デザート班も賑やかに作業を続けています。今回のデザートはフルーツのチョコレートがけ。美味しくて、簡単で失敗が無いので最近人気のレシピです。大きな鍋にミルクを入れ、チョコレートを溶かします。ゆっくり、じっくり、焦げないようにかき混ぜながら、チョコレートを少しずつ溶かしていきます。その間オレンジ、バナナ、リンゴ、パイナップル、いちじく、洋ナシ、メロンを食べやすい大きさにカットします。

パエリアが完成しました。時刻は既に3時半。お酒を飲みながら何だかんだとオツマミを食べてはいたのですがお腹はペコペコです。出来上がったパエリアと一緒に記念写真を撮ってから乾杯。本格的な宴の始まりです。




まずはオードブルから食べ始め、サラダ、ポテトサラダ、ニンジンのサラダと続きます。食事中は「サングリア」では無く、赤ワインを飲みます。

ある程度前菜が片付いて、お腹の減り加減も一服したところでパエリアの登場です。オーガナイザーの指示の元、班ごとにパエリアを取りに行きます。指示を守らない場合はパエリア没収、なんて厳しい掟も飛び出したので、皆さん秩序を守って列を作ります。スペインでは大変珍しい光景です。



パエリアを食べ終えたら食後のデザート。基本的にスペイン人は食後のデザートとコーヒーが無いと食事をした気にならない人が多いです。プラスチックのコップに各自好きな果物を好きなだけ入れて、その上から熱々のチョコレートを注ぎます。炒ったアーモンドスライスとお好みでバニラアイスをトッピング。スペイン人は老若男女、甘い物が大好きです。フルーツに全く興味を示さず、チョコレートだけを食べている人達も多かったです。



デザートを食べ終わる頃、コーヒーが出てきます。スペインではデザートと一緒にコーヒーを飲むよりも、最後の最後にコーヒーで食事を終わらせる人が多いです。

コーヒーが終わるとカクテルタイムに突入です。今回のカクテルは「モヒート」。スペイン人が大好きなキューバ発信のカクテルです。大量生産なので今回もプラスチックの皿洗い桶が大活躍します。黒砂糖、ミントの葉、搾ったライムを混ぜ、すりこぎで潰します。ミントの葉が程よく潰れたら水、ロン、隠し味にコニャックを加え、氷を入れた大きな桶でキンキンに冷やせば出来上がりです。



通常でも1時間はまるまる食事タイムを取る国です。週末のパーティともなれば3~4時間かけてゆっくり食事をします。
今回のパーティでは準備段階のビール、食前酒の「サングリア」、食事時の赤ワインと絶えず飲み続けているので、カクテルタイムが始まる頃には皆さんすっかり酔っ払っています。例え酔っ払っていなくてもスペイン人は踊るのが大好きです。直ぐにダンスタイムが始まります。周りに民家の無い、全くの畑の中に居るので音楽のボリュームも最大。でも音楽以上に皆の声の方が賑やかでした。



踊って、歌って、ちょっと疲れたら席に座って「モヒート」を飲みながら歓談する。そして又踊り出す。そんな事を繰り返していたら、ミニ農園に着いてから7時間が経過していました。アルコールがある限り宴は続くので、お昼ご飯の残りを肴に宴会はエンドレス状態。最終的にパーティが終わったのは夜の11時を過ぎた頃。半分位の人達がそのままクラブに流れていき、明け方過ぎまで踊っていました。皆さん本当に元気です。



お祭り騒ぎが大好きなスペイン人に感化されたのか、元々お祭り騒ぎが大好きだからスペインに来たのか。ここに住む外国人達も皆、全く違和感無くスペイン人と行動を共にしていました。スペインでのパーティはまさに体力勝負なのです。


取材:市川路美