イタリアのクリスマスの風物詩パネットーネ


日本のクリスマスには生クリームに苺の乗ったデコレーションケーキが親しまれていますが、イタリアではケーキというより菓子パンのようなパネットーネがクリスマスを代表するドルチェです。北風が吹く頃、色とりどりに包装されたパネットーネが菓子店の店頭を華やかに飾り始めます。今年はどこのパネットーネにしようかと考えるのもクリスマス前の楽しみ。この時期に相応しく、フィレンツェの小さな菓子店からパネットーネを中心にクリスマスの伝統菓子をお伝えします。


◆フィレンツェの人に親しまれる菓子店

フィレンツェでは家族経営の小さな店が元気です。取材先のバッレリーニ(Ballerini)もその例にもれず、1936年に開店し、現在三代目のピエールルイージさんに受け継がれた店は地元の人々の出入りが絶えません。オーブンから焼き上がるものという発想でドルチェに限らずパンや切売りピッツァなど幅広く製造しています。ピエールルイージさんの代になり、チョコレート作りも始めました。店内に腰掛けるスペースがあり、小腹がすいたら気軽に立ち寄りたくなる憩いの場でもあります。


◆美味しいことが第一



物心が着く頃から菓子作りを手伝っていたピエールルイージさんは菓子職人以外の仕事につくことは考えたこともないそうです。早朝3時からのハードな仕事にもかかわらず、パティシエ一筋。お菓子作りの魅力とは、卵やバター、小麦粉、砂糖など身近な材料から分量や手法を変えるだけで多彩なお菓子を作りだせること。伝統の味を大切にしながら、意欲的に新しい味を試みるピエールルイージさんのドルチェ持論は第一に美味しいこと、次に見た目に美しいこと。見た目がどんなにきれいでも美味しくなければ納得できません。


◆大きくて甘くて柔らかいパネットーネ



パネットーネは約500年前にミラノで誕生し、クリスマス用に家庭で焼かれた銘菓です。時を経て地方菓子が全国に広がり、今ではイタリア全土で最も人気のあるクリスマス菓子になりました。バターの香りが広がる甘くてざっくりと柔らかい生地が特徴です。砂糖漬けフルーツと干し葡萄入りの伝統的なパネットーネ(写真右)に加えて、最近はチョコレートや木の実等を用いた多種多様のパネットーネが出回ります。「大きなパン」という意味のパネットーネは実に1kgもあります。家族揃ってクリスマスの豪華な昼食のドルチェに皆で少しずつ取り分けていただきます。


◆パネットーネができるまで


パネットーネ作りは酵母を用いてじっくりと時間をかけて発酵させるため、出来上がりまで実に36時間を要します。最初に生地をこねて、休ませ(発酵)、少しずつ材料を加えながら合計4回生地をこねます。


オーブンから出した熱々のパネットーネを2時間程冷まします。逆さに吊るすのはこんもり膨らんだパネットーネがしぼまないように。ちなみにこれはミニサイズの500gのパネットーネ。



そして一つずつ丁寧に袋詰めし、包みます。包装や店のディスプレーは奥様のシルヴィアさんの担当です。こうしてパネットーネが店頭に並びます。11種類のパネットーネが色分けされているので、沢山並ぶと華やかです。12月は日曜日も営業するバッレリーニでは今年約4,000個のパネットーネを作る予定です。クリスマス前は一年で最も忙しい時期になります。


◆トスカーナの伝統菓子


フィレンツェ独自のクリスマス菓子はありませんが、近郊のシエナ発祥のリチャレッリ(写真左)やパンフォルテはトスカーナ全域で親しまれています。アーモンドを用いたリッチャレッリ、木の実と砂糖漬けフルーツを用いたパンフォルテにパンペパートはどれも素朴な焼き菓子です。パンフォルテとパンペパートには香辛料がたっぷり使われています。それは昔、砂糖漬けや乾燥していない果物を用いていたため、酸化による悪臭を香辛料でごまかしたからだそうです。


◆家族が団欒するクリスマス


元々家庭で作られていた伝統菓子を購入する時代になっても、イタリア人はシンプルなドルチェを好む傾向があります。きっとマンマの手作りのような家庭的な味に惹かれるからでしょう。ピエールルイージさんのドルチェにもそんな素朴なおいしさ、毎日食べても飽きない魅力があります。イタリアでは25日は祝日、店は一斉に休業です。ピエールルイージさんご夫妻も一息つき、クリスマスの昼食に家族と親せきが集います。定番のクリスマス料理があるわけではなく、今年はシーフード料理の予定だとか。もちろん食後にはスパークリングワインとともにパネットーネが待っています。

日本の皆様も良いクリスマスを!



Ballerini

Borgo Ognissanti, 132/r

Tel. / Fax +39 055/215094


取材、文、写真 奥村 香織