静岡のサムライ・パティシエ、 パリでの挑戦

〜日本人のエスプリとクオリティーを〜


またたく間にパリのスイーツ通のあいだでうわさになったパティスリー、「MORI YOSHIDA」。最近のおいしい話題には、どうやら日本人の活躍が欠かせないようです。


★本日のパティシエ 吉田 守秀さん

高校卒業後にお菓子の専門学校へ進み、20歳からは東京・青山の「アニバーサリー」に勤務。「パークハイアット東京」「菓子工房オークウッド」を経て、地元の静岡に「ナチュレ・ナチュール」をオープン。2013年4月からは、パリに「MORI YOSHIDA」を構えている。愛称は「モリ」、トレードマークは、サムライ風ヘアスタイル。


「なんとなく」のスタートから本気になるまで

一面ガラス張りの店内には光がたっぷり差し込み、目の前には緑が広がる。

実家は静岡の和洋菓子店、3人兄弟の末っ子として生まれた吉田さん。小さなころから、甘いものがいつもそばにある環境で育ちました。そろそろ進路を考える時期になり、「特にやりたいこともないし、兄2人はまったくお菓子とは違う世界へ進んだし、それなら僕が実家を継ぐのかなぁ、となんとなく思って」、高校卒業後はお菓子の専門学校へ。「なんとなくで入った僕は、まったく優等生ではなかったですね。モンブランのクリームが何か分からなかったくらい!」と笑います。その後、東京・青山の「アニバーサリー」に入社、翌年にはフランスの田舎で研修、そして帰国後は「パークハイアット東京」へ。今の吉田さんのベースでもあるというハイアット勤務中に、パティシエ魂にスイッチが入ったといいます。「とにかく走り回った4年間でした。勤務時間外も、コンクールに向けての練習や準備の手伝いにも精を出していましたし。そうやっていくうちに、横のつながりも出てきて、見えてくるものがあって。負けず嫌いなんですよ、僕。上へ、上へ、という気持ちになり、俄然やる気が出てきました。」そして、吉田さんたちが『ネクスト・ジェネレーション』と自ら名づけた同年代の仲間と切磋琢磨しあい、その才能はみるみるうちに頭角を現すのでした。


フランスに飛び立つまで

ハイアット内の1つのレストランのパティスリーを任され、「おいしいもの、新しいもの、最高のもの」を考えてお菓子作りをするようになった吉田さんは、2004年、ハイアットのシェフが独立してオープンする「菓子工房オークウッド」のスタッフに引き抜かれます。「オープニングスタッフとして一年契約だった僕が、ほとんど仕事を任されていて。一年間、期待にこたえようと全力でがんばりました。」

その後は、実はフランスへ行こうと思っていた吉田さんですが、実家の和洋菓子店の改装に伴い、静岡に戻ることに。そして2005年、故郷にて「ナチュレ・ナチュール」をオープン。2006年、2007年には、TV東京の「TVチャンピオン2」で2年連続の優勝という快挙を遂げるのでした。


新たなステージへの準備

数年間の故郷での生活で、やはりフランスへ行きたいという思いが高まってきた吉田さん。「理由?そうですね……古いものを知らないと新しいものが出てこない。古いものを掘り下げると、新しい発想が出てくる。フランス菓子の原点であるフランスへ行けば、古いものを見れるだろうと思ったんです。そして、もうひとつ。日本ではある程度のキャリアも実績もあるから、2店舗目をオープンしてもふつうに売れるだろうと思ったんです。

でも、フランスでは僕はゼロの状態。あえて、そんな土地で勝負してみるのも楽しいんじゃないか、と。おいしければ買いに来てくれるだろう、と。」

そして、約3年間に渡り、フランスと日本を行ったり来たりしながら新しいステージの基盤を作っていくことになります。フランス滞在中には、「ギ・サヴォア」「ル・パティスリー・デ・レーヴ」「ジャック・ジュナン」など、名だたる名店で修行を積みながら好機を待ち、物件探しを少しずつ始めました。もともとは、大好きなマレ地区を中心に探したそうですが、「結局、ピンと来たのはアンヴァリッドが見えるこの場所でした。キッチンも十分なスペースがあったし、近くに住んでいて馴染みもあったし。」新しいステージは、いよいよ決まりました。


オープンまでの長い道のり

ところが、ここからが予想外に長くてつらい道のりだった、と吉田さん。「オープンできずに帰国してしまうのではないかと思ったこともあります」と苦笑い。物件の大家とのトラブル、予定通りにまったく進まない工事、はっきりしない弁護士……、「あまりにも理不尽で納得できないこともたくさんありましたが、フランス語を思うように操れない自分にも責任があると、自業自得にもっていくしかなかったですね。」

結局、気の遠くなるような行政手続きや工事の遅れ(まさにフランスの洗礼)が重なり、予定していたクリスマスオープンは果たせず、2013年4月5日、やっとのことでオープンへと漕ぎつけました。物件が決定してから、8ヶ月後のことでした。


吉田さんのお菓子、拝見

「原点を忘れず、伝統を大切にしながら、デザインをモダンにするのが僕のやり方。フランス食材を使って、歴史や文化を重んじたお菓子作りをしていきたいですね。」

なるほど、ショーケースを眺めてみると、伝統的なお菓子が今どきのスマートなデザインで並んでいるのが伺えます。昔の人たちが築き上げてきたものをリスペクトしながら、『今』を取り入れていく……しっかりした土台があるからこそ、ぶれないお菓子が出来上がるのでしょう。



「Duo Saint- Honoré / デュオ・サントノレ」(5.8ユーロ)

シューの中にはたっぷりのフランボワーズクリーム、上にはピスタチオのシャンティイを。そこに、ヘーゼルナッツのクリスタリゼをトッピングした贅沢なケーキ。底のパイ生地はさっくりと口あたりが良い!



「Polonaise / ポロネーズ」(5.3ユーロ)

ブリオッシュをシロップ漬けし、そこにカスタードとオレンジのコンフィを入れたもの。しっとりしたブリオッシュ生地と絶妙のハーモニーです。そのまわりには極上メレンゲをぬり、アーモンドを散りばめて。



吉田さんの愛称、「モリ」から命名した「M / エム」(5.8ユーロ)

チョコレートムースとメープルシュガーのキャラメルクリーム、マンダリンのコンフィチュールの相性が抜群です。ヘーゼルナッツのビスキュイも美味。


こだわりのシンプルが光る店内


ショーケースには、チョコレートとマカロンも揃う。

さて、ここで少し、吉田さんがこだわった店内の様子を覗いてみましょう。いまだかつて、ここまでシンプルな内装のパティスリーは見たことがないほどの『究極』のシンプルさ。「余計なものはすべて、排除しようと思いました。イメージ通りの仕上がりです。」シンプルだからこそ、いい部分も悪い部分も見えやすいもの。そこをあえてとことんシンプルで勝負とは、いかにも吉田さんらしい!隅々まで行き届いたお手入れのおかげで、とても清潔に保たれた空間。そして、ショーケースに並ぶケーキたちは、まるで宝石のように輝き、店内を美しく彩っています。


いつも笑顔のオープニングスタッフの皆さんと。

挑戦はまだまだ続く

「今でもまだうまくいかないことばかりで、毎日が大変!でも、せめておいしい商品をしっかり並べていければそれでいいかな、と日々がんばっています。」フランスの伝統菓子に、日本のエスプリとクオリティーを吹き込んで、サムライは今日もパリを行く。フランス人のハートをがっちり掴んだ吉田さんのパリでの挑戦は、まだまだ続きます。


★MORI YOSHIDA(モリ・ヨシダ)

65,avenue de Breteuil

75007 Paris

Tel : 01 47 34 29 74

営業時間 : 10 :00〜19 :00

定休日 : 月曜

最寄メトロ : 10、13番線Duroc、6番線Sèvre Lecourbe


文: 内田ちはる

写真: 新村真理