トスカーナの伝統菓子カントゥッチを召し上がれ!
トスカーナ地方で親しまれるカントゥッチ。アーモンドがぎっしり詰まった固い焼き菓子で、食後に琥珀色のデザートワイン、ヴィン・サントに浸していただく姿はトスカーナらしい光景です。伝統的なアーモンド入りに加え、近頃はチョコレートやドライフルーツが入った新しいヴァリエーションも人気。今回はフィレンツェの菓子店を訪れ、カントゥッチ作りを見学します。
◆サン・ロレンツォ界隈で郷土菓子を
フィレンツェの玄関口、サンタ・マリア・ノヴェッラ駅。この駅前広場からホテルやバス停が目印のウニタ・イタリアーナ広場は目と鼻の先。
そこから中央市場へと続くサンタントニーノ通りは人の往来が絶えません。通りの半ば差し掛かると、甘い香りに誘われます。昨年6月にオープンした『イル・カントゥッチョ・ディ・サン・ロレンツォ』はカントゥッチを代表に郷土菓子の工房。立ち止まって、ガラス越しにカントゥッチ作りの実演を見る人々が目にとまります。
店主アレアンドロさんのご両親はもともとフィレンツェ郊外でパン屋兼菓子店を営み、その後レストラン業に転向。しかし娘のフランチェスカさんが学業を終えるのを機に、母親のレシピによる昔懐かしいカントゥッチを再現し、フィレンツェの中心地であるサン・ロレンツォ地区で新しい菓子店をオープンします。
◆カントゥッチの作り方
そのまま噛むと歯が折れそうなほど固いカントゥッチが多い中、『イル・カントゥッチ・ディ・サン・ロレンツォ』ではしっとりとした食感が自慢です。その柔らかさの秘訣、つまり母譲りの秘伝のレシピを共有するのはアレアンドロさんとフランチェスカさんと従業員の3名だけ。秘密はさておき、カントゥッチ作りを教わりました。
1.小麦粉、砂糖、アーモンド、ベーキングパウダー、塩、はちみつに卵を加えてよく混ぜ合わせる。生地の状態を見ながら、必要に応じて卵を加える(3kg分の生地)。
メモ:はちみつを入れると色合いが濃くなります。
2.こねて生地が滑らかになったら、容器から取り出す。大きな生地をひとつにまとめて二つに切る。
3.生地を小分けにし、手でのばして、細い棒状に形を整える。一本ずつトレイに並べる。
4.デコレーション用に卵白を塗り、ざらめ糖をかける。続いて、180度のオーブンで15分間焼く。
メモ:ひと手間かけても砂糖で飾ったほうが見栄えがいいと言い切るフランチェスカさん。
5.オーブンから取り出し、しばらく冷ます。
メモ:焼きあがりはふっくら膨らみ、こんがりと色づいています。
6.冷めたら、ひとつずつ切る。しっとり香ばしいカントゥッチの出来上がり!
(オーブンで二度焼きをするタイプもあり。)
メモ:カントゥッチはビスコッティ・ディ・プラートと呼ばれることもあります。ビスケットは「ビス(二回)+コット(焼いた)」と二度焼きが語源。
毎日焼きあがるカントゥッチは手作りだからどれひとつ同じ形はありません。4種類のカントゥッチは量り売り。試食もできます。日持ちするのでお土産にもぴったり。1kg購入するとヴィン・サント風リキュールのおまけつき。香り高いヴィン・サントとの相性は抜群です。じっくり時間をかけて熟成した本物のヴィン・サント(詳しくは『特別な日のためのデザートワイン、ヴィン・サント』をご覧ください)と共に味わえば少し贅沢なひとときを演出してくれることでしょう。
<4種類のカントゥッチ>
伝統のカントゥッチ
Cantucci traduzionali
アーモンドがたっぷり入ったカントゥッチの基本
チョコレートと砂糖漬けオレンジピールのカントゥッチ
Cantucci al cioccolato e scorza d’arancia candita
チョコとオレンジのコンビネーションが味わい深い
乾燥いちじくと胡桃のカントゥッチ
Cantucci ai fichi secchi e noci
無花果の甘みが口いっぱいに広がります。
ブラックチョコレートとヘーゼルナッツのカントゥッチ
Cantucci al cioccolato fondente e nocciole tostate
ビターな生地にヘーゼルナッツが詰まったちょっぴり大人の味
アーモンドと無花果&胡桃は昔からのレシピ、チョコレート系2種は新しい味。二人に「どれが一番好き?」と尋ねると、声を揃えて「無花果と胡桃!」。「乾燥無花果も胡桃もよく家で食べていたから、子供の頃から慣れ親しんだ味なの。」とフランチェスカさんが続けます。イタリア人はしっかり甘いお菓子が大好きです。
カントゥッチ以外にもおばあちゃんのタルト(Torta della nonna)やふわふわのマントバーナ(La Mantovana)など伝統菓子も作っています。どれも家庭的で素朴な味わいです。この1年で店に並ぶお菓子はほぼマスターしたというフランチェスカさん。お菓子作りが肌に合っているようです。「娘が独り立ちして、隠居する日が待ち遠しいよ。」というアレアンドロさん。そうは言いながらも愛娘との仕事を楽しんでいるように見えるのは私だけでしょうか?伝統のお菓子をたくさんの人に味わってもらいたいと願う父と娘が作るトスカーナの素朴な味をぜひお試しあれ!
Il Cantuccio di San Lorenzo
Via Sant’Antonino 23/r Firenze
Tel. 055 290034
営業時間:9:00~19:00
取材、文 奥村 香織